昔と比べたらかなり便利になっている。高速鉄道が遠距離移動を助けてくれるからである。20年前のミラノ・ナポリ間であればゆうに6時間以上掛かっていたところが、現在では4時間15分という短縮。空の便を使わなくとも十分に耐えられる所要時間となり、空港までの移動を考えたりする心配もなく町と町を直結移動できるわけである。
ナポリ駅界隈はやはり独特な雰囲気が漂っている。入り交ざる人種はイタリアどこへ行こうとあまり変わらないのだろう。北イタリアの一見整備された様相とは一転して、油断できないぞ、的な雰囲気が漂っているのだ。実際、北と南どちらの犯罪発生率が高いかを問われたら一概に「もちろんナポリ!」なんて言うべきではないのだが、20年以上イタリアに暮らすわたしの感覚によるとやはり南のほうがより緊張度は高い。油断してはならない、という警告を肌で感じるのである。
駅に着くとホテルまでタクシーに乗った。メーターは付いているが運転手はそのスイッチをオンにしない。納得いかぬことは何でも訊くことにしているので「なぜメーターを使わない」と取りあえず尋ねる。運転手は振り向くどころか頭も動かさずミラー越しにわたしを見つめると「壊れているから」と一言。もちろん故障などしていないとわかっている。しかしそれ以上の詮索はしない。これがナポリ、いや南イタリアならではの暗黙のルールなのである。車を停めると「25ユーロ」と言われてとりあえず手書きの領収書をもらう。
ホテルに着くと早速フロントの女性に「駅からここまでって25ユーロくらい?」と尋ねる。すると「何言ってんの、10ユーロくらいだよ!」と鼻で笑われる。こんなものである。
ナポリへやってきた目的はナポリと鹿児島による友好姉妹都市イベント参加のためである。鹿児島というか日本の文化をナポリで紹介するというもの。日本舞踊の披露と歌手によるコンサート企画である。もちろん自分のテリトリーにはない舞踊にはノータッチ、オペラ歌手によるナポリ民謡と日本歌曲のコンサートを企画しながら歌手を選出してイタリア人(ナポリ人)の聴衆に聴いてもらうことが役目となった。鹿児島とナポリを絡めなければということで鹿児島の血を引く歌手、しかもイタリアですでに大きな舞台を踏み経験を積んでいる歌手を選出して、その歌手にナポリ民謡と日本歌曲の両方を歌ってもらわなければならなかったのである。
堂満尚樹(音楽ライター)

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